宗教法人 犬の良さ

司法試験、予備試験、ロー入試の過去問解答案

H30司法試験論文過去問 刑事系科目

第1 設問1

乙がPTA役員会において「二年生の数学を担当する教員がうちの子を殴った」と発言した行為について、名誉毀損罪が成立する。

 

(1)PTA役員会には乙を含む保護者4名とA高校の校長の5名しかいなかったが、「公然」にあたる。

ア 「公然」とは、不特定または多数者をいう。もっとも、名誉毀損罪の保護法益は外部的名誉であるところ、少数者から不特定多数者に伝播する具体的危険性があり、不特定多数者に伝播しようとした場合には、なお「公然」にあたると考える。

 

イ 本件において、数学を担当する教員が生徒甲を殴ったとの発言であり、A高校の校長としてはかかる事実を確認しなくてはならない責務がある。事実確認のため、乙の発言についてA高校の他の教員に調査する具体的危険性があったと言える。そして、実際に校長が教員に聞き取り調査を行なったことによってA高校の25名全員に丙が甲に暴力を振るったとの噂が広まっている。合計30名に広まっていることから、これは多数名と言える。

 

ウ したがって、本件の場合は「公然」にあたる。

 

(2)乙は「2年制の数学を担当する教員」と人物を特定してはいないが、なお、「事実を摘示」したと言える。

ア 「事実を摘示」とは、特定人の社会的評価を低下させるに足りる具体的事実の摘示をいう。

イ 本件では、乙は「2年生の数学を担当する教員」と人を特定してはいないとも思える。しかし、A高校において2年生の数学を担当している教員は丙しかおらず、かかる発言から容易に丙であることが特定可能であるといえ、なお特定人に対する事実の摘示にあたる。また、うちの子を殴ったという具体的事実は、現代の教員にとっては由々しき事態であり、社会的非難の対象となり得るものであるから、丙の社会的評価を低下させるに足りる。

 

ウ したがって、「事実の摘示」にあたる。

(3)名誉毀損罪は具体的危険犯であり、現実に丙の名誉が侵害されることは必要ない。

(4)よって、乙の上記行為に名誉毀損罪が成立する。